それにしてもモテませんね。




飲み会が終わった、酔っぱらいながら帰りの電車の中。


友達「ところで彼女できた?」
オレ「わはは。そっちは?」
友達「できると思う?」
オレ「それにしてもモテませんね」
友達「それにしてもモテないな」
オレ「いや、みんなからチヤホヤされたいだなんて思ってないんだけどね、」
友達「1人だけでいいんだけどな。って、この会話、いつも俺らのお約束だよな」
オレ「なー」


オレ「ただ、お前はその気になればすぐにできると思うよ」
友達「いやいや、それはどうだろ」
オレ「まだ忘れられない?」
友達「んー。まー、もう別にどうこうしたい、ってのはないんだけどね」
オレ「そっかー。悩ましいなー」




友達「そっちこそ、飲み会で『すぐにいい人見つかるよ』って言われてたじゃん。小高さんに」
オレ「ああー。まぁ、なんかあのセリフは何十回と言われてきたからな」
友達「なにそれ、自慢?(笑)」
オレ「自慢、になっちゃうのかなぁ。あんまし嬉しくないんだけど。っていうかさ、」
友達「なに?」
オレ「『ちゃんと見てくれる人がいるよ』とか『そういう人の方が女の人は嬉しいよ』とか言われるたびに、
   その後に『でも私はイヤだけど』って言われている気がするよ」


友達「あー、わかるそれ。『きっといい人が見つかるよー。まぁ、私は勘弁だけど』みたいな、ね」
オレ「あれ、男友達に言われると、まぁ、嬉しいんだけど、女の人に言われると傷つくよなあ」
友達「でも、向こうも悪気があって言っているワケじゃないから怒るに怒れないっていう」
オレ「泣き言言いたくなるけど、ありがとって返すしかない。贅沢な悩みなのかな」
友達「言われないよりかはいいんじゃない?」


オレ「どうなのかなぁ、最近思うんだよ。
   最初から絶対ダメだとわかって諦める続ける辛さと、
   『もうちょっとで手に入るよ』って励まされつつも、絶対に手に入らない辛さって、
   どっちがしんどいんだろなって」
友達「ああー」
オレ「もし夢見せるようなこと言う方が辛いんだったら、オレは人を励ますことをやめなきゃなって思う」
友達「どっちもしんどいとは思うかなぁ」
オレ「そっかぁ。やっぱりそうなるのかなぁ」




友達「彼女できたら、こんなことしたい、とかってある?」
オレ「昔はさんざん妄想してたけど、最近は考えないな。お前は?」
友達「俺さ、車買ったじゃん?」
オレ「うん」
友達「だから、助手席に乗せてドライブしたい。ベタだけど」
オレ「あー、いいねえ、そういうの。運転している男の人ってポイント高いらしいよ」
友達「で、山下公園とか、レインボーブリッジとか行きたい。ベタだけど」
オレ「ははは。ベタでいいじゃん。あとあれだよな、車バックさせるときは、こう振り向きながら手をシートにかけてさ」
(後ろに回すジェスチャーをした腕が隣の人にぶつかる)
オレ「(隣の人に)あ、すいません…」


友達「(ドア付近に移動して)お前はなんかないの? こうしたいとか」
オレ「うーん…。なんだろなぁ。もう、一緒にこたつ入ってみかん食べるとかがいいなぁ」
友達「まるで熟年夫婦みたいだな」
オレ「で、向こうは本を黙々と読んでて、オレはその隣でノートパソコン開いて、黙々とググってたい。
   でも、一緒にこたつ入っているっていう」
友達「…疲れてる?」
オレ「あはは。疲れてるんのかなあ。精も根も尽き果てたところはある気がする」
友達「ぶっちゃけ、1人でもやっていけるしね」
オレ「それが良くないよな。なんでこう、自立しすぎてしまったんだろ」
友達「実家暮らしが自立とかいうな(笑)」
オレ「それもそっか」




友達「ただ、つくづく思うんだけどさ」
オレ「うん」
友達「思うっていうか、感じるっていうか」
オレ「うん」
友達「どうやったら女の人から好かれるのか、どうしてもわからない」
オレ「それってテクニック的な話? 聞き役に回った方がいいとか、そういう」
友達「いや、それもあるんだけど、そういうのをとことんやってもできないじゃん?」
オレ「あー、はいはい。わかるわかる」
友達「なにこの八方ふさがり感、みたいな」
オレ「なんかあれだよね。どんなフォームで投げてもガーターになるボーリングみたいな気分だよね」
友達「まっすぐ転がってたのに、ピンの前でくいっと曲がって溝に入るみたいな」
オレ「すんげー、わかる。そんなことが何回も続くと『もう、どうしろと。』って言いたくなる」
友達「一度一度が体力使った真剣勝負だからこそ、なおのことね」




オレ「でもさ、自分のこと棚に上げて言うのもなんだけどさ」
友達「なに?」
オレ「同年代の女の人たちの理想が高くなるのはわかる気がするんだよ」
友達「なんで?」
オレ「30ぐらいになって、周りは結婚しだしてて、でも自分はしてないって言うならさ、
   『ここまで来たら最高の男と結婚してやる!』みたいに思うんじゃん?」
友達「そりゃあ、まあ」
オレ「そしたらオレとかは普通に眼中から外れるよね」
友達「俺も外れるかな」
オレ「金持っているわけでもなければ、顔がいいわけでもない。性格が悪いのもイヤというほどわかってる。
   オレが女だったら選ばないと思うわ。あっちにだってプライドがあるだろし」




友達「でも話ひっくり返しちゃうけど、正直、恋愛関係はどうでもよくなったってのがある。最近は仕事の方がおもしろい」
オレ「主任に昇進したもんね。がんばりました」
友達「ありがとうございます。だからさ、やっぱり責任感みたいのも感じる」
オレ「すごいなー。えらいなー」
友達「前はそれが重かったんだけど、ここんとこ、やりがいみたいのが見つかってきたし」
オレ「へえー、すげぇな。見つけられたのがすごい」
友達「だから土日も仕事の勉強したいなって思ったりして。なんかもう、自分には仕事があればいいかなって思い始めてきた」
オレ「そかー、それも生き方の1つだしな。どうであったって、お前が楽しいならそれが一番だと思うよ」


友達「そういえば沢村の結婚式行く?」
オレ「あ、行く行く。この前連絡来た」
友達「なんか2次会で出し物やろうって話があるんだけど」
オレ「うっそ、やるよー」
友達「コントっぽいのやろうかって言ってて。ネタ考えてないけど」
オレ「いいね、コント。うちにアフロあるから、あれかぶりたい」
友達「じゃあ、お前はアフロ刑事で(笑)」
オレ「ガンガン盛り上げちゃうよー。沢村いいやつだから」
友達「もちろんですとも」